経営者は知っておきたい!退職金制度を導入する際のポイント

退職金制度とは、従業員が勤務中に貯蓄した一定の金額を退職時に支払う制度です。一般的には、企業が従業員のために退職金基金を設立し、基金に従業員の退職時の給与の一部を積み立ていく形で準備をしていきます。
従業員の長期的なキャリアプランやリタイア後の生活をサポートするための方法の一つとして企業が提供するという考え方のもとに作られている仕組みが退職金制度ということになります。
また、従業員の退職金は、企業の離職率低下や従業員のモチベーション向上につながるという点も企業が退職金制度を整備する一つの理由にもなっています。

退職金制度の歴史

退職金制度は、労働者が長期間勤務した場合に報酬を与えるための制度として、19世紀にイギリスで始まったと言われています。当初は鉄道会社などで導入され、長期的な雇用を促進するためのものでした。

その後、アメリカ合衆国でも、1875年に鉄道業界で最初に退職金制度が導入され、1890年には退職金制度に関する法律が成立しました。この法律により、企業が退職金基金を設立することが認められ、従業員による退職金の積立が推奨されました。

日本においては、大正時代には鉄道会社や商社などで、昭和時代に入ると製造業や金融業などにも退職金制度というものが広まりました。戦後、日本でも1962年に日経連の要求を受けて適格退職年金制度というものが創設され、企業に退職金基金を設立することが求められるようになりました。

現在では、労働者の退職後の生活をサポートするために、退職金制度が多くの企業で導入されています。

退職金制度の種類

「退職金制度」と言っても、実はその種類は様々です。こちらでは、主な退職金制度を構築する際に用いられる4つの方法をご紹介いたします。

退職一時金

従業員が退職をする場合に一定の金額を定期的に支給します。
支給期間は数年から終身まで様々で、支給額は勤続年数や最終的な給与額に応じて変わる場合があります。

中小企業退職金共済(中退共)

中小企業において、退職金制度を導入するための制度です。厚生労働省が中小企業者の退職金制度の導入・運営の支援を目的に、中小企業退職金共済機構を設立し、その加入者が共同で退職金基金を運用することにより、退職金を支給する制度です。

企業型確定拠出年金(DC)

従業員個人が自己責任で年金積立をする制度です。
退職時には積み立てた資産を一括で受け取ることができます。一定の税制優遇措置があるため、従業員にとっては節税効果も期待できます。

確定給付企業年金

企業が設立した退職金基金に加入し、退職後に支払われる一定の金額を受け取るものです。
支払い額は基金の運用成績によって変わる場合があります。企業が基金の運用を行うため、従業員が運用リスクを負うことはありません。

参考記事 : 【徹底解説】退職金制度の種類まとめ

退職金制度の導入するメリット

従業員のモチベーション向上

退職金制度があることで、従業員は退職後の生活について安心することができます。
そのため、企業に対する忠誠心やモチベーションが向上し、長期間働いてくれることが期待できます。

人材確保・定着の促進

競争が激化する現在、企業は人材確保や定着に力を入れる必要があります。
退職金制度を導入することによって、企業の魅力が高まり、優秀な人材を確保することができます。

退職後の負担軽減

従業員に退職金を支給することによって、退職後の生活費などの負担を軽減することができます。
これにより、退職後の生活に不安を感じずに、有意義な人生を送るためのサポートを会社として提供できます。

退職金制度の導入するデメリット

企業側の費用負担

退職金制度を導入する場合、退職金原資の準備はもちろんのこと、制度自体の管理や運用のためのコストがかかるため経費が増加することがあります。

経済情勢の変化によるリスク

退職金制度は、企業が退職金基金に積み立てた資金を運用することが前提となっています。
しかし、経済情勢の変化によっては、運用リスクが生じることがあり、場合によっては企業が従業員に対して退職金を支払えなくなるリスクがあります。

退職金制度導入が適している企業は? 

従業員数が一定数以上ある企業

退職金制度を導入するためには、一定の規模の企業である必要があります。そのため、従業員数が一定数以上ある企業が導入することが適しています。近年、1人社長の法人などもありますが、5人以上の従業員様がいらっしゃるような企業様では退職金制度の導入を検討されても良いかもしれません。

従業員の平均勤続年数が長い企業

退職金制度は、長期間勤めた従業員に対して支払われるものですので、従業員の平均勤続年数が長い企業が導入することが適しています。

従業員の待遇や福利厚生に力を入れている企業

退職金制度は、従業員に対する福利厚生の一つです。近年、収入面だけでなく福利厚生も重視するような優秀な方は多いと思います。そのような方を迎え入れるために従業員の待遇や福利厚生に力を入れている企業が導入することが適しています。

退職金の支給相場は?

退職金の支給相場は、業種や企業規模、地域によって異なるため一概には言えませんし、特に支給金額が法律で定められているということもありません。
しかし、厚生労働省の「令和3年賃金事情等総合調査」によると、大企業における平均退職金額は、大学卒で2,230万円、高校卒で2,017万円となっています。
また、東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」によると、中小企業の平均退職金額は、大学卒で1,118万円、高校卒で1,031万円となっております。
このように、企業規模により、退職金の金額は大きく異なります。また、業種や地域によっても金額は変わってくるというのが現状です。

また、退職金の支給額は、企業の退職金制度の規定によっても異なります。一般的には、勤続年数が長いほど、支給額が高くなる傾向にあります。ただし、企業によっては、勤続年数にかかわらず一定の金額を支給する制度や、会社の業績に応じて支給額を決定する制度など様々な制度があります。

退職金にかかる税金は?

法人における税の取扱い

法人が従業員に対して退職金を支払った場合、その支払額は経費として認められ、法人税の所得控除が適用されます。つまり、退職金を支払うことによって法人が支払う法人税の額が減少することになります。

ただし、退職金については、法人が支払うと同時に、退職者が受け取るため、法人から大きな資金が出ていくことになります。これによって会社の経営に影響が出ることは避けたいですよね。そのためには、法人が退職金制度を導入する場合、退職金の支払いに備えて、適切な資金調達を行う必要があります。

また、法人が支払う退職金には、所得税や住民税などの個人の税金が加算されるため、法人はその分を源泉徴収して納付することになります。

従業員に対してかかる税金

従業員が受け取る退職金には、所得税と住民税の両方が課税されます。

まず、所得税についてですが、退職金は「退職所得」であるため、その年の所得総額に加算されて課税(総合課税)されます。ただし、退職所得には退職所得控除や配偶者特別控除、扶養控除などの控除があるため、実際に課税される金額は、個人の所得状況によって異なります。

次に、住民税については、住所地の市町村が課税を行います。住民税の計算は、所得税の計算に基づいて行われ、その年の1月1日から12月31日までの期間に受け取った退職所得に対して課税されます。
ただし、住民税の控除もあり、年末調整の際に控除されるため、実際に課税される金額は、個人の所得状況によって異なります。

退職金制度導入において利用できる助成金

退職金制度を導入する企業に対して、国や地方自治体から助成金が支給される場合があります。以下に、主な助成金をいくつか紹介します。

中小企業退職共済助成金

中小企業が中小企業退職共済制度に加入した場合、制度に応じた基準を満たすことで、国が定める共済加入奨励金が支給されます。この助成金は、共済料の一部や運用管理費用に充てることができます。

雇用調整助成金

一定期間内に従業員を一時的に休業させる場合に、賃金の一部を国から支援する制度で、退職金を積立てる目的で一時的に休業させる場合も対象となります。

給与等構造改革推進助成金

退職金制度の導入に伴い、給与改定や雇用条件改善に向けた取り組みを行う場合に、国が支援する制度です。

産業雇用安定助成金

企業がリストラを行う場合や、長期間にわたる雇用の安定に取り組む場合に、国が支援する制度で、退職金制度の導入が含まれる場合もあります。

なお、各助成金には、支給される金額や申請方法などの条件がありますので、詳細については、国や地方自治体のウェブサイトなどで確認することをおすすめします。

退職金制度を導入する際のポイント

退職金制度を導入する際には、いくつかのポイントがあります。主要な5つのポイントを以下にまとめました。

人事戦略として位置づける

退職金制度を導入することで、従業員のモチベーション向上や離職率の低下などの効果が期待できます。そのため、人事戦略の一環として位置づけ、企業の将来の成長に必要な人材を確保するためにも、真剣に検討することが大切です。

予算を確保する

退職金制度は、一度に大きな出費が必要になるため、予算をしっかりと確保することが必要です。
そのため、導入前に退職金の支払額や積立額、運用費用などを慎重に検討し、予算を確保する必要があります。

企業の規模や業種に合わせて制度を選択する

退職金制度には、企業の規模や業種に合わせてさまざまな制度があります。そのため、自社に合った制度を選択することが重要です。具体的には、中小企業の場合は民間の生命保険を活用したり、中小企業退職共済制度を活用、大企業の場合は自己積立型退職金制度を選択することが多いです。

社員にわかりやすく説明する

退職金制度は、従業員にとって大きなメリットとなるため、制度内容をわかりやすく説明することが大切です。そのため、社員向けに制度の詳細やメリットを説明することで、従業員の理解を深め、制度の効果を高めることができます。

継続的に運用管理を行う

退職金制度は、導入後も継続的な運用管理が必要です。そのため、制度の運用に関するルールや規則を明確にし、運用管理を継続的に行うことが大切です。また、従業員からの相談や問い合わせにも迅速かつ適切に対応することが、従業員の信頼を維持するために必要です。

まとめ

退職金制度は、自社で雇用する大切な従業員様の将来を守るために会社が準備するプレゼントのようなものです。
また、優秀な人材を採用する上でも退職金制度を整備することは効果があります。
ただし、退職金制度を新たに構築するためには様々な注意点が必要になりますので、慎重に検討することが求められます。

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